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特集「別室でミステリーを」

2022年5月21日

特集「別室でミステリーを5」①
フレイザー家の秘密(上)(2020年 テレビ映画)

監督 スサンネ・ビア
出演 ニコール・キッドマン/ヒュー・グラント/ドナルド・サザーランド

シネマ365日 No.3938

人格の謎

特集「別室でミステリーを5」

ミステリー映画ですが「犯人は誰?」ではなく、最大の謎は主人公ジョナサン・フレイザー(ヒュー・グラント)の性格であり彼の人格が隠し持つ謎です。妻グレイス(ニコール・キッドマン)は臨床心理士、ジョナサンは小児腫瘍外科医。マンハッタンの上層階級でありグレイスの父フランクリン(ドナルド・サザーランド)は、ジョナサンの保釈金200万ドルを肩代わりできるセレブで、美術館のような豪邸に住む。発端は、フレイザー家の一人息子ヘンリーが通う、私立名門校の寄付集めパーティーで見かけた、エレナという妖艶な女性だ。彼女が殺され、不倫関係にあったジョナサンに嫌疑がかかる。どう考えても犯人はジョナサンだ。事実そうなのだ。刑事も、ジョナサンを弁護しなければならぬ立場となった有能な弁護士ヘイリーも、義父のフランクリン、グレイスの友人で弁護士のシルヴィア、どころか妻のグレイスと息子のヘンリーさえジョナサンが殺したと口にはしないが確信している。ところが当のジョナサンは頑強に否定、テレビにも新聞にも「私は殺していない、無実だ」と主張する▼テレビのインタビューに答え「実は真犯人の心当たりがある」。仰天ものの発言をする。ヒューさま、気は確か? と思わせるヒュー・グラントの悩ましくも邪念に満ちた表情が天下一品である。そう、私たちは「誰が犯人なのか」ではなく「なぜジョナサンは自分を犯人でないと言うのか」という彼の信念(?)に疑問は沸点に達する。彼は「真犯人」を誰かに示唆し、生贄にせねばならぬ。エレナの夫フェルナンド、妻、義父、被害者のエレナ、あまつさえわが息子への疑惑をほのめかし(ひょっとして夫ではないかも)と、一抹の希望を抱いていたグレイスはプッツン、徹底的に敵対する。ジョナサンはヌエみたいな男で妻に嫌がられながらも押しの一手で近づき、広々としたテームズ川の美しい河畔で妻を抱き寄せ、耳元で「僕だよ、僕だよ、僕だよ」の甘い囁きにグレイスは、なんと、ジョナサンの自宅(元グレイスの家、彼女は迷子になりそうな豪壮な父の家に避難している)を深夜訪れ、ベッドを共にするのである▼証人が次々証人台に。誰の証言も検察側、弁護側によって切り崩され「ジョナサン本ボシ」の確証があげられない。マスコミに取り囲まれるたび、彼は妻と手をつなぎ…弁護士から不仲の印象を陪審員に与えたら不利になると厳命されているからであるが、グレイスは内心いやいや、ジョナサンは満足げに妻の手を握り、どこから見てもやさしく思いやりに溢れる、有能な外科医である。ジョナサン自身が証言台に立つが微塵も動揺しない。「僕は無実だ。僕は殺していない」。検察の質問とはチグハグかもしれないが、その強硬な自信は真犯人を探し出せないのは、自分を告発する警察や検察の怠慢であるとさえ聞こえる▼(下)に移る前に、本作の最も魅力ある登場人物の1人義父フランクリンについて。彼はジョナサンが大嫌い。娘がなぜ彼と結婚したのか、今でもぼやく。ジョナサンが自分と同じ匂いを持つ男だったからだ。常に妻を裏切り、情事を繰り返すだらしない男。でも彼は娘可愛さに200万ドルの保釈金を用立ててやる。刑務所に収監されたジョナサンに面会する。「あなたが僕を快く思っていないことは理解しています」慎ましくうなだれる娘婿に「やめろ。君の理解に興味はない。今日は私の考えを君に理解させに来た。私は君が例の女性を殺したと確信している。だが娘は君の無実の可能性を捨てていない。だから珍しくあいつは私の援助を求めた。娘のたっての頼みは断れん。だが君がこれ以上娘や孫に害をなしてみろ。私がお前を追い必ずこの手で殺してやる」。こんなシーンもある。彼は孫が学校でのけ者にされていることを娘から聞いた。校長に会う。「なぜ孫が自宅学習なのだ。学校はヘンリーを守ると君は娘に言っただろ」「理事会の方針です。学校を醜い騒動に巻き込みたくない」「いいかね。私はゲスな男だ。やわなゲスじゃない。昔気質の筋金入りだよ。私や私の愛する者を傷つけられたら徹底的にやり返す。君はさっき〝〟醜い〟と言ったな。本当に醜いものを見せてやろうか」。鷲のような眼。堂々たる長身。豊かな銀髪。ブラシのような眉。ドナルド・サザーランドの顔が、声が、昨日今日の俳優とはケタちがいの貫禄とキャリアで圧倒する。

 

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