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特集「別室でミステリーを」

2022年5月27日

特集「別室でミステリーを5」⑦
病院坂の首縊りの家 (1979年 ミステリー映画)

監督 市川崑
出演 石坂浩二/佐久間良子/桜田淳子/入江たか子

シネマ365日 No.3944

フーダニットの王道

シネマ365日Ⅺ 特集「別室でミステリーを5」

時代の設定は昭和26年。本作には驚くほど大量な事件の連鎖があり複雑な人間関係が工夫され、明治末期、若い女性が首をくくった病院の過去が背後霊のように立ち昇る。おどろおどろしい古典的・推理小説の典型だ。名探偵・明智小五郎に始まり、高木彬光の神津恭介、島田荘司の御手洗潔、法月倫太郎の同名探偵、中でも金田一京助が群を抜いているのは、市川崑、横溝正史、石坂浩二トリオによるムードづくりが秀抜だからだ。古色騒然とした田舎、廃屋、あるいは伝説と、懐古とノスタルジーが縁取った舞台。本作ではかつて繁栄した大病院が今は廃屋同様になって位置する場所を、人はいつしか「病院坂の首縊りの家」と呼ぶようになった…と、いかにも導入がミステリアス▼例によって殺人事件が相次ぐが、犯人は、となるとこれが簡単にわかっちゃうのだ。原作はベストセラーだし、映画もヒットしたし、粗筋がどうこういうストーリーではないと思うのでばらすが、佐久間良子である。市川作品に関わらず謎解きの要は、主役の重さを持ち堪えられる女優であるかどうかで決まる。「犬神家の一族」では高峰三枝子、「獄門島」の司葉子、「悪魔の手毬唄」の岸惠子。金田一シリーズのヒロインは大抵、縛につくことを拒み自死する。服毒死が多い。佐久間良子がラストシーンで見せた静かな死は(唇のはしから血が一筋)、シリーズの中でも哀切極まると好評だった▼病院跡の廃屋(首縊りの家)で新婚の記念撮影を、という依頼からしてゾクゾクさせる。新郎は得体の知れぬ男で、新婦は目つき朦朧、尋常ではない。新郎の生首が天井から吊り下がった状態で発見され、金田一京助(石坂浩二)が解明にあたる。溝口ミステリー独特の怨念のしがらみが悶絶させてくれる。背景にあるのは佐久間良子演じる法眼弥生の残酷な過去だ。15歳で母が再婚した夫にレイプされ、変態亭主は現場を写真館の親父に撮影され、親父は長年にわたって弥生をゆすり、彼女に殺された。彼女が産んですぐ里子に出された娘は、偶然にも弥生の夫琢也の愛人冬子となった。冬子には息子と娘がいて、血のつながらない兄妹、俊男と小雪だった。2人は母の復讐のため弥生の娘由香利を誘拐し強制的に結婚写真を撮ったのだが謝って由香利を殺してしまった。由香利と小雪は母親の弥生さえ間違えるほど瓜ふたつ。小雪の話から冬子が自分の娘と知った弥生は小雪を由香利として手元に置くことにする。ところが吉沢という、兄妹が属していたバンドのドラマーがすり替わりを知ったため、ひとりも2人も3人も同じって感じで彼も殺しちゃう。事情聴取にきた警部は、法眼家の屋根裏にひっそりと生きていた弥生の母、千鶴(入江たか子)が息を引き取ったと告げられた。老母の周囲に関係者が集まったが、娘弥生の姿だけなかった。弥生は長年法眼家に仕えていた車夫、三之助の人力車でかつての法眼病院に向かい、到着して車のシートを開くと弥生は舌を噛んで息たえていた▼佐久間が毒蛇のようなズル賢い悪女でなく、こらえにこらえていた抑制が殺人につながってしまった不運な女性を演じ、オーラを放ちました。金田一探偵がモゴモゴと口を動かすのは、頼りない言葉とは裏腹に、頭の中で何か画策しているのだと石坂浩二の整った顔がモノをいう。横溝シリーズは最後に金田一探偵の謎解きがありますから、途中なんぼ混乱しても、まあじっくり見ていようという気になるからいい。故意に分かりにくくしたような相関図も気にならなくてすむ。しかし人物の関係を劇中で一応は述べないといけないので、尺が長くなる傾向にあります。本作は140分近く、「八つ墓村」に至っては150分です。気の長いファンにとっては。スルメをジュクジュク噛む味わいが応えられないに違いない。まさにwhodunit(フーダニット=犯人は誰だ)ミステリーの王道です。

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