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特集「別室でミステリーを」

2022年5月29日

特集「別室でミステリーを5」⑨
血に笑う男(上)(1937年 劇場未公開)

監督 ローランド・V・リー
出演 アン・ハーディング/ベイジル・ラスボーン

シネマ365日 No.3946

サイコ男に一見の価値

シネマ365日Ⅺ 特集「別室でミステリーを5」

原作がアガサ・クリスティの短編「ナイチンゲール荘」。本作も小ぶりですがラストのケツがキュッと引き締まり、中盤まで平凡だったプロセスを逆転しました。ヒロイン、キャロル(アン・ハーディング)はルームメイトのケイトと叔母ルーと慎ましい3人暮らし。職場では嫌味な上司に辟易している。そこへ宝くじが当たった。960万ペニーの大金だ。一生、夢見た暮らしができる。3人でパリに行こう、ヨーロッパ中旅行しようと舞い上がった。婚約者のロニーが帰国した。彼は5年間スーダンで働き、やっと世帯が持てる、キャロルにいい暮らしをさせてやれると喜んで帰ってきたが「毎日同じことの繰り返しはイヤ、ロマンチックな経験がしたい。もうあくせく働かなくていいのよ」とはしゃぐキャロルに「融通の利かない退屈な男」を自認するロニーはショボン。「金ができたからと浮かれるな」「ひどい人。あなたは人の気持ちがわからないのよ」「こっちの言うことだ」で婚約は破棄▼海外に出る前アパートを貸すことになった。内覧に来たのがジェラルド(ベイジル・ラスボーン)だ。長い外国暮らしで洗練された物腰、豊富な話題。女の心をくすぐる褒め言葉。キャロルは心を奪われる。パリ行きの船になぜか彼も乗船していた。船上の豪華なディナーにダンスパーティー、モンテカルロ、カンヌ、ローマ、カイロ、サンモリッツ、ロンドン、ホテルは豪華な5つ星。キャロルを心配するロニーはジェラルドの経歴を調べたが、彼がいう会社や学校に在籍していない。「奴は悪党だ」とキャロルに忠告しに来たら、はや結婚したあとだった。彼は化学工学技師だという。心臓に疾患を持つ彼が静かに仕事できるように郊外に広い家を買った。村の少女がメイド、召使いは彼女の叔父だ。朴訥であるがあまり気は利かない。家の購入費は5000ポンド。支払い直前に銀行手形が不渡りになりしばらく落ちないとジェラルドが言う。キャロルが用立てる。しばらくして売主の値は2500ポンドだったとわかる。「私を疑うのか」とジェラルドは逆上し「今日が最初で最後のケンカにしましょう」とキャロルが譲った。屋敷の地下にワインセラーがある。ジェラルドは実験用の薬品や液体もあるからと、立ち入り禁止だった▼そこには薬品でなく若い女の写真やショールなどの持ち物がトランクに入っていた。何気なくドアを開けたキャロルは「出ていけ」と怒鳴る夫の凄まじい形相を初めて見た。夫が弁解するには「私は病気だ。頭の中の何かが苦しめる」らしい。これはある意味ホントだった。彼には女の亡霊が浮かぶのである。衰弱気味の夫に妻は地元のグリブル医師を呼んだ。「心臓の病気だ」と医師は告げ、ジェラルドの読んでいる本に興味を持った。「犯罪学に興味があるのかね。私も仕事柄研究した」「フレッチャーをどう思う」とジェラルドが質問した。本に登場する犯罪者のひとりだ。「女性3人を殺した男だな。確か写真が載っていたね。おや、この本にはない。版が違うのかな。次に持ってくるよ」と言って帰った。ケイトとロニーが新居を訪問した。「ロンドン警視庁の調べでは、ジェラルドの経歴に不審な点はないから」安心して来た、と言うロニー。だがキャロルが席を外すと「彼女は幸せに見えるかい」とケイトに訊いた。「明らかにおかしいところがあるわ」。それが聞こえたのか「ケイトもロニーも性悪だ。追い出せ」とジェラルドは怒鳴る。2人は心配しながら辞去した。村の縁日だという日、ジェラルドは召使いたちに休みを取らせ、屋敷は夫婦ふたりきりとなった。怪人ジェラルドが本性を表わします。ミステリーの面白さはトリックや謎解きにありますが、同時に人物のキャラの描き込み方にもあります。本作の圧巻はジェラルドの豹変ぶりと、殺人鬼に対抗するキャロルの攻防戦です。現在(2022)を遡ること85年の作品に、早くも登場したサイコ男に一見の価値あり。

 

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