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令和4年6月のベストコレクション

2022年6月9日

特集「令和4年6月のベストコレクション」⑨
イカとクジラ(上)(2006年 家族映画)

監督 ノア・バームバック
出演 ジェフ・ダニエルズ/ローラ・リニー/ジェシー・アイゼンバーグ

シネマ365日 No.3957

崩壊家族 

特集「令和4年6月のベストコレクション」

離婚を決めた両親と思春期の息子2人。離婚の原因は母ジョーン(ローラ・リニー)の手当たり次第の浮気だが、これじゃ離婚は自然の成り行きね、と思わせるのが旦那のバーナード(ジェフ・ダニエルズ)。元高名な作家だったがすっかり書けなくなり、大学で文学の講師をして糊口をしのいでいる。逆に妻は流行作家、夫の助言はもはや必要としない。長男はパパっ子。次男はママっ子だ。別居を決めた父親は共同監護とした。「私は火、木、土と隔週の木曜。これで平等だ」。こんなややこしい割り振りを決めるのがそもそも息子たちには迷惑なはずだ。長男ウォルト(ジェシー・アイゼンバーグ)は母に「16年も一緒にいてなぜ今さら別れるの。ママは本を出すのにパパは落ち目だからか」。母「チキン君(彼女は息子をそう呼ぶ。チキンには弱虫という意味がある)悩んだりしないで」。パパが引っ越したアパートを「僕、ここ嫌いだ」と弟フランク。父は長男に別れた理由を「彼女の浮気に耐えられなくなった。近所の精神科医もその中のひとりだ」。それを聞いた長男は母を弾劾する。「もうママのいる家にはこない。浮気のこと、聞いたよ。なぜだよ」「辛かったのよ」「僕らがいるのに、サイテーだよ。何だよ、すっかり作家気取りで。パパの本は高尚だから売れないのだ」▼高尚?  面白くない本だからでしょ。父親が実にイヤな男だ。次男が尊敬し目標とするのはテニスのコーチ、アイヴァンだと聞き「やつは二流の俗物だ」と吐き捨てる。「ゾクブツって何?」「本や映画に興味のないやつのことだ」「僕だってそうだよ」。彼の方がよっぽどバランスが取れています。パパの憤慨は止まらない。「ママが重視したのは私の商業的な成功だ。でも期待はずれだった」父親からボヤキばかり聞く長男は父親ナイズされ、世間体を気にする男子になりそうだ。ガールフレンドのソフィと手を繋いで歩いていた、向こうから知り合いの女の子がきた。「なぜ手を離すの?」とソフィ。彼女は両親にウォルトを紹介し一緒に食事したが、ウォルト評はあまり芳しくなかった、でもソフィはウォルトを傷つけないよう、それは黙っている。フランクは卓球で負かしたパパが口汚く罵るのに(くたばれ、ジジイ)と小声で毒づく▼パパは大学の教え子がアパートを出て行かなくてはならないと聞き、自分の家を提供する。下心ありあり。妻のことばかり言えない。長男は高校の発表会で自分の作詞作曲だと歌った曲の詞がピンク・フロイトのパクリだとバレ、セラピーを受けることになる。パパ「公立の教師は無教養で困る。セラピストはせいぜい学士だろう(パパは文学博士)。一度従って喜ばせてやれ」と上から目線。だがこのセラピストは優秀だった。自分を侮ってろくに対応しないウォルトに、子供の頃の思い出を聞かせてくれと頼む。ウォルトが軟化し「6歳の頃、ママとパーティーを抜け出して映画を見に行った。一緒に抜け出したのが嬉しかった。あの頃のママは友達みたいだった。一緒に色々やった」人が変わったように楽しそうに話しだした。「自然史博物館に行った。怖い展示を見たよ。イカとクジラが格闘していた。指の間からやっと見た。家に帰るとママがおさらいした。イカとクジラはまだ怖かったけど、ママの話を聞いていて楽しかった」。ふとセラピストが口を挟む。「パパはどこにいたのだい。登場しないけど」「さあ。書斎だろ。博物館には来ていない。弟も生まれていなかった」。ウォルトが引きずってきた心のしこりがわかった。彼はあの頃、母親を独占していた。その幸福感を奪われたことが、過剰に母親を責める原因を作っていました。

 

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