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令和4年6月のベストコレクション

2022年6月10日

特集「令和4年6月のベストコレクション」⑩
イカとクジラ(下)(2006年 家族映画)

監督 ノア・バームバック
出演 ジェフ・ダニエルズ/ローラ・リニー/ジェシー・アイゼンバーグ

シネマ365日 No.3958

そんなものよ 

特集「令和4年6月のベストコレクション」

帰宅したウォルシュは父親とリリー(居候させている女子大生)が抱き合って立ったまま「じゃあ、口で」とか言っているのを目撃する。家を飛び出した。次男のフランクがママの家にいた。父親が血相変えてやってきて連れ帰ろうとする。「今日はママの日だよ」と動かない息子。「嫌がっているわ」「ウォルトは?」「来ていないわ。帰って」そのあとウォルトが来た。「ソフィと別れた」「なぜ?」「さあ」「後悔しているのね」母親は微笑んでいる。「僕がこんな状態になるなんて納得できない」どこまでも優位主義の息子に「そんなものよ」ママは軽くいう。家族4人が揃った。「訴えてやる。離婚は君の浮気が原因だ。監護権は私が得る。楽勝ケースだと弁護士も言った」。「養育費が心配で共同監護にしたくせに」「ウォルト、フランク、来い」パパは息子たちを引き連れ帰るつもりだ。フランクは「イヤだ、イヤだ」。ウォルトが割って入った「居させてやって。僕がパパのところに行くから」…苦労性な子ですね▼道路で押し問答している時、パパが倒れ病院に搬送。過労らしい。見舞いにきたウォルトに「リリーは去った」「僕はしばらくママの家にいる」「パパの家に居ろよ。言うことをきけ。お前の家だ」全然学習しない父親です。「行かない」「なぜだ。傷つくよ」病室を出てウォルトは泣いた。その足で博物館に行き、巨大なレプリカの「イカとクジラ」の前に立った。見上げるウォルトで映画は終わる。どこの家にもありそうなトラブルです。家族だからいつも平和で楽しいとは限らない。家族だから苛立ち、対立し疲弊する。いきなり父母の離婚を突きつけられた、高校生と中学生の息子たちの動揺。しかし長男は立ち直りつつある。父親の権威主義は今さらどうにもなるまい、ひどい男かもしれないけど、父親だ。事態が平静化するまで、自分が一緒にいてあげればいい。次男のフランクは性への関心真っ只中。学校の図書室で、ロッカーで自慰行為するのが見つかり、ママが学校に呼ばれる。男の子だもの、仕方ないわね、とママが慌てないのがいい▼才能が開花したママは順風満帆だ。書評は好評、出版は決まる、素敵じゃない。「ママが望んでいたのは商業的成功だ」。パパは唾棄すべきかのように見下していますが、それを負け犬の遠吠えというのよ。彼、他人の分析は得意だけれど、自己分析はできない人の典型です。ウォルトはそれに気がついてきた。家庭とか家族とかは、どこかに瑕(きず)があるものだ。人間同士のぶつかり合いだもの。ウォルトはイカとクジラの思い出がある限り、母親の愛情が信じられる限り大丈夫でしょう。ママっ子のフランクはママの新しいパートナーが、尊敬するテニスのトレーナーだとわかって嬉しいみたい。ママがウォルトに言う「そんなものよ」もよかった。今すぐ解決を求めないの、それくらいの忍耐は特に若い時は必要よ。ママはそう言いたかったに違いない。この視聴感、どこかで観たことがあると思いません? そう、製作がウェス・アンダーソンなのです。「フレンチ・ディスパッチ」や「ムーンライズ・キングダム」の監督ね。流れに逆らわず、競わず、鍛えず、人と比べない駘蕩としたゆるキャラが、家族崩壊という難儀なトラブルにも関わらず、人生を前向きにする、そんな明るさの基調がここにもあります。

 

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