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令和4年6月のベストコレクション

2022年6月13日

特集「令和4年6月のベストコレクション」⑬
ダ・ヴィンチは誰に微笑む(2021年 ドキュメンタリー映画)

監督 アントワーヌ・ヴィトキーヌ

シネマ365日 No.3961

ムンディが動けば世界が動く

ニューヨークの美術商が13万円で買った「サルバトール・ムンディ」(救世主=以下ムンディ)がレオナルド・ダ・ヴィンチの作だと判定され、2017年510億円で落札された。購入者はサウジアラビアの皇太子だったが当時は明らかにされなかった。2017年以後、ムンディは公開されていない。本作はレオナルド・ダ・ヴィンチというカリスマの名前と、アートマーケットが絡みあい、国際間で巨額の金が動いた壮絶なドキュメントです。「男性版モナ・リザ」と呼ばれたムンディは、多方面の分野からの評価を経て、ルーブル美術館が3カ月の精査の結果、レオナルド単独の作品ではなく、工房で弟子が描いたと判断を下します。ところがサウジの皇太子が購入後、あれは本物だと結論をコロリ変えてしまう。莫大な資金援助がサウジからあったからと思えますが、どんな名品も金で動きます。絵画も商品ですからそれはいいでしょうけど、動く金が半端じゃない。売価はどんどん釣り上がる。2013年にはスイスの画商、イブ・ブービエが8000万ドル(約100億円)でムンディを購入、その後ロシアの大富豪ドミトリー・リポロフレフに1億2750万ドル(約157億円)で売却し、57億円を手にしたイブは不当な売値として長年裁判で争う結果になりました。イブは「美術品取引の習慣だ」と澄ましていましたが▼キャリアに傷がつくことを恐れ、真贋どちらとも言えない鑑定家たち。美術品としての価値よりも所有欲を満たすために買い、特設の倉庫に保存して門外不出とする購入者。明らかに投機目的で動く美術品。だんだん「ダ・ヴィンチ」から離れていくアートの裏社会が浮き上がってきます。スクリーンで見たムンディは青いローブをゆったりと着て右手を軽くあげ人差し指で何かを指し示す。頬のふっくらした容貌はモナリザに似ている。これがキリストだと言われても、なるほどノーブルな表情である。1500年ごろルイ12世のために描かれたとみられ、のちにチャールズ1世の手に渡ったが、1763年以降行方不明となっていた。1958年オークションに出品されたが、複製と見做され落札額は45ポンドだった。2005年、前述したニューヨークの美術商が入手し、ロンドンのナショナル・ギャラリーに鑑定を依頼、2008年本物と結論され、2011年ナショナル・ギャラリーの「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」で新発見の真作として展示された。のち世界的なオークションハウス、クリスティーズが購入し、2017年史上最高額でアラブの皇太子が購入した、というのが映画のあらまし▼皇太子はムンディを独り占めにして公開しない。石油以外にも「僕ン家には立派なものがあるのだぞ」と言いたいのかも。超金持ちの考えることはわからん。わからんがなんとなく、ムンディを動かしたら世界が動く確信があるのだと思う。この映画だけでも美術史家、アドバイザー、大富豪、コレクター、大学教授、学術関係者、美術館関係者、ジャーナリスト、オークションナーらが利害と名声に群がり、アートの領域を超えたグローバル化を反映しています。皇太子がその気になればどんな切り札にだって使えるわ。願わくば、彼の良識と芸術への愛を信じたい。

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