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令和4年6月のベストコレクション

2022年6月15日

特集「令和4年6月のベストコレクション」⑮
クライ・マッチョ(下)(2021年 西部劇映画)

監督 クリント・イーストウッド
出演 クリント・イーストウッド/ナタリア・トラヴェン

シネマ365日 No.3963

だから幸せに暮らすのさ

ハワードが息子を取り返すのには裏の事情があった。「数年前レタの名前でメキシコの不動産に投資した。税金対策だ。その投資が満期を迎えた。収益を回収したい。ラフォがテキサスにいれば彼女が収益の半分を渡す」。金のためかとマイクは怒るが、あの母親の元に置いていたら博打か強盗かで、いずれ刑務所行きだろう、それより父親の牧場で仕事を覚える方がいい。そう考え旅を続行する。夜だ。焚き火のそばでマイクと少年が話す。ここが本作のキモです。「昔はタフでも今のあんたは弱い。ロデオで一目置かれたマッチョだったが、全て失った」とラフォ。「そうだ。昔は大した男だったよ。今は違う。だがいいか、マッチョは過大に評価されている。賞賛されすぎている。人は力を誇示するために、自分をマッチョに見せたがる。それが何になる。雄牛に踏みにじられ、馬に15メートルも蹴られる、バカがやる職業だ。全ての答えを知っている気になるが、老いとともに無知な自分を知る。気づいた時は手遅れだ。お前の父さんはいい男だ。人は人生で選択を迫られる。お前も自分で決めろ」▼レタの用心棒が追跡してきた。銃を向けラフォを連れ去ろうとした時だ。足元にいたマッチョが羽を翻し、大きな硬いクチバシで男の顔と手を攻撃した。たまりかねて男は銃を放り出す。「追ってくるな」。マイクは男の車を奪ってラフォと去る。国境に来た。父ハワードが待っていた。「マイク、マッチョをあげるよ」。ラフォにしたら命から二番目に大事な宝だ。精一杯の感謝だ。「いいのか。俺の居場所はわかるだろ。困ったら来い」。マイクはマッチョを抱いて走り去る車を見送る。「そりゃ、寂しいよな」とは、マッチョに言ったのか、それとも自分にか。車をUターンさせたマイクはマルタの店の前に止めた。誰もいないフロアでダンスするふたりでエンド。本作をイーストウッドの終活だという意見もありましたが、そうとは見えないわね。いくらでも紡ぎ出すわよ、この人。映画作りが好きで仕方ないのだから。本作の脚本をイーストウッドは50年前に読んでいたが、主人公に俺はまだ若すぎると言って90歳まで待ったような人よ。寝たきりになっても、墓に入っても次の映画を考えるのがイーストウッドよ。マイクが選んだパートナーが、キラキラでも派手派手でもない、地味な田舎の主婦だったのもミソね。こういうところ、イーストウッドの社会的感覚ってシャープだわ。マッチョを世間は従来のように評価しない。有害な男らしさとさえ見る。男の顔色をうかがわず、自分の人生をはっきり選び、必要とあれば、社会に異議申し立てする大人の女が社会をも、男をも変えていく。だから俺はマルタのようないい女と幸福に暮らすのさ、と言うのがマイクのメッセージじゃない。強面の保安官補が実は恐妻家で、ワンちゃんと女房を連れてくるユーモラスなシーン、よかったわ。

 

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