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特集「ナンセンスは素敵だ」

2022年6月17日

特集「ナンセンスは素敵だ8」①
赤ちゃん泥棒(1988年 コメディ映画)

監督 ジョエル・コーエン
出演 ニコラス・ケイジ/ホリー・ハンター

シネマ365日 No.3965

温かな夢

特集「ナンセンスは素敵だ8」

ありえないシチュエーションの連続がジェットコースターのように展開し、ありうるかもしれないことと納得させてしまう凄腕のコメディ。「ファーゴ」「ビッグ・リボウスキ」でもそうですが、本作もコーエン兄弟の好きな〝誘拐〟がテーマです。赤ちゃんがほしいあまり、金持ちネイサン夫婦に5つ子が生まれたと知り「1人くらいいいだろう」と盗んでしまう夫婦のお話。チンケなコンビニ強盗を繰り返すハイ(ニコラス・ケイジ)は刑務所で出会った警察官エド(ホリー・ハンター)に一目惚れ。彼女が振られたと知りプロポースし、結婚。ハイは泥棒をやめ堅気の仕事につき、貧しいが砂漠のトレーラーハウスで幸せな新婚生活を送る。エドが不妊症だとわかり暗転。警察もやめ引きこもりになったエドを心配するハイ。新聞報道で5つ子誕生を知り「なんて不公平なのだ」と憤り、エドもまた「1人でいいから盗ってきて」▼ニコラス・ケイジは23歳、細い腰の引き締まったスリム・ボディが初々しい。ホリー・ハンターは29歳。警察官の制服と制帽がキリリ。本作で一躍脚光を浴びました。夫婦はいけないこととは知りながら盗んできた子を抱きしめ「この子と離れて生きていけない」と感極まってエドは泣き、ハイ・ジュニアと名付ける。ハイは恋女房ファーストだ。女に引きずられるヘタレをかくも自然体で演じられる彼は、家庭内暴力と虐待のニュースが溢れる現代社会から見ると無形文化財ものだ。ジュニアを囲む幸福は束の間だった。刑務所から穴を掘って土砂降りの砂地から、泥まみれのゾンビみたいに出現した刑務所仲間2人組、ゲイルとエベルが、招かれざる客としてやってくる。不吉な予感を覚えたエドは追い出してくれと頼むが気の弱いハイは「今晩だけ泊めてやってくれ」。ハイはバイクに乗った禍々しい地獄の使者が襲う悪夢を見る▼それは正夢となり、賞金稼ぎの「マン・ハンター」ランドールはネイサンに、赤ん坊を見つけてやる代わり、賞金2万5千ドルの倍、5万ドルをふっかけていた。赤ん坊は脱獄犯と地獄の使者に交互にさらわれるものの、脱獄犯たちはジュニアの可愛さに心を奪われ、赤ん坊を横取りした地獄の使者は追跡してきたハイをズタボロにするが、ヨレヨレになりながらハイは、焼夷弾で男を爆死させる。でもやっぱり俺たちのやっていることはいけないことだ。夫婦は改悛しジュニアをネイサンの家に返しに行く。事情を聞いたネイサンは赤ちゃん泥棒を不問とし、「私たち、もうダメなの」と離婚を打ち明けたエドを諭し、今夜はとりあえず休んで帰れと寛大な措置をとる。その夜、ハイは不思議な夢を見た。夢の中に現れたゲイルとエベルは心を入れ替え、出てきた穴から刑務所に逆戻り。数年後のネイサン家のクリスマスには匿名の夫婦からジュニアにプレゼントが届く。さらに未来では輝く青年となったジュニアがフットボール選手として活躍する。やがて大勢の子供や孫に囲まれた一組夫婦の後ろ姿が見える。「俺たちではないかもしれない」とハイは思うが、そんな幸せな老後があってもいいなと、温かい余韻に浸る▼「あるはずがない」が「ありうるかもしれない」幸福感で着地させるラストが効いています。間抜けな脱獄犯が赤ん坊にメロメロになったり、車の屋根から振り落とされたはずの赤ん坊が、道路の真ん中でニコニコしていたり、凶悪な地獄の使者が赤ん坊だけは傷つけないことも、すべて丸め込まれてしまうヒューマンな映画。プロセスのドタバタは苦手な方もおられるでしょうが、まあいいか、乗せられてみようと。ニコラス・ケイジやホリー・ハンター。あるいは脱獄犯ゲイルを演じたジョン・グッドマンらの、名声以前の若き日を見るのも楽しい。

 

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