女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

特集「幾億の星と幾千の月のシネマ・パラダイス」

2022年6月22日

特集「幾億の星と幾千の月のシネマ・パラダイス5」①
新選組始末記(1963年 時代劇映画)

監督 三隅研次
出演 市川雷蔵/若山富三郎/天知茂/藤村志保

シネマ365日 No.3970

雷蔵「信義」に惚れる

新選組始末記 (1963年時代劇映画)

本作は市川雷蔵が是非自分でやらせてくれと、永田雅一大映社長に直談判した映画です。脚本の星川清司が「市川雷蔵とその時代」でそう打ち明けている。星川にとっては大映での初仕事だった。脚本を読んだ雷蔵がその日のうちに飛行機に乗り東京本社に行って「私にやらせてほしい」と永田社長に頼み「やりたいというならやれ」で決まった。確か数ある雷蔵映画の出演何本目かの記念作品に選んだのが本作だったと後で読んだことがある。どこに惚れ込んだのか。新撰組は何度も映画化されてきたが、本作の主役は地味な監察方の山崎丞だ。彼は親二代の浪人で、風雲急を告げる幕末に、自分らしい生き方を模索する「青年の彷徨」が現代に通じる。近藤勇(若山富三郎)のいう「武士らしい生き方」に惹かれ山崎は隊士となるが、新撰組内部のセクショナリズムや殺人集団としての機能に疑問を持ち悩む。これも熱烈に就活した会社の実像に幻滅した若者像に当てはまる。「破戒」や「金閣寺」の自己探求に通じる、雷蔵の好むテーマだ▼恋人の志満(藤村志保)は女医だ。山崎は親が友人同士だった医師の娘、志満と半年同居しながら男女の関係にならない。医師という仕事を持つ志満に比べ自分が浪人であることに引け目を感じ、彼女にふさわしい立場になりたいのだ。山崎の真面目な人柄と剣の腕を見込んだ近藤は彼を洛中見回りにも参加させる。沖田総司、土方歳三という江戸の試衛館道場以来の生え抜きが、芹沢鴨、新見錦らアンチ近藤派を粛清するなど、よく知られるエピソードがアップテンポで語られる。クライマックスは池田屋切り込みだ。勤皇派の密議が行われるのは「四国屋」だと主張する土方と、山崎が得た情報「池田屋」を尊重する近藤が分裂し、近藤は隊士を二つに分ける。「誰でもいい。5名出ろ」という近藤の指示に沖田総司、原田左之助、井上源三郎ら試衛館の門弟が進みでる。池田屋の抜刀アクションには三隅研次監督らしい緻密なセットが再現された。狭い階段、廊下、小座敷、低い天井での斬り合いはリアルだ▼「山崎よくやった」近藤はまず情報戦を制した山崎を褒めた。四国屋から遅れて駆けつけた土方は潔く山崎の功績を認めた。世間の人が新撰組をなんと言おうと究極のところで近藤を信じる。そんな男の信義が雷蔵を惹きつけたのだろう。引き揚げる新撰組を見送る群衆の中に志満がいた。自分が知る山崎丞とは別人になってしまった男が、血まみれの隊士に混じって去っていく。この映画は志満のクローズアップで終わる。男主役の時代劇にしたら珍しいラストシーンと言いたい。三隅監督はシベリア抑留の過酷な体験を持つ。権力、暴力、討伐、国家の主義主張も、およそ争いとなれば全て虚しいととらえた主張を、監督は志満によって象徴した。トリビアになるが、雷蔵の永田社長への直訴を役者の越権行為だと三隅監督が怒った。まだキャスティングが決まっていないのに監督を飛び越えたのだから、怒るのは無理なかった。それを聞いた雷蔵は星川と三隅を家に食事に招いた。「あの脚本は雷蔵主演映画のスタイルではないと思うが」と星川が危惧を述べると、雷蔵は「いや、あのホンは一行も変えてもろては困ります」と爽やかに笑顔を見せ、脚本と監督への信頼を明らかにした。それからである。雷蔵の代表作となる剣三部作「斬る」「剣」「剣鬼」は脚本星川、監督三隅で世にでる。そんなエピソードを知るにつけても本作のチョイスは雷蔵らしかったと思える。

 

あなたにオススメ