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特集「幾億の星と幾千の月のシネマ・パラダイス」

2022年6月23日

特集「幾億の星と幾千の月のシネマ・パラダイス5」②
ゆれる (2006年 家族映画)

監督 西川美和
出演 香川照之/オダギリジョー/伊武雅刀

シネマ365日 No.3971

つまらない人生だよ

新選組始末記 (1963年時代劇映画)

弟・猛(オダギリジョー)が法廷でクルリ、証言を変えちゃうのね。それが決定打で兄・稔(香川照之)は刑務所入りとなった。7年の刑期が終わり出所する兄の思い出を浮かべつつ、子供時代のフィルムを見ていたら事件当日の決定的な事実がありありと浮かんだ。弟の証言は事実誤認だったとラストでわかり「お兄ちゃん、ごめん。取り返しのつかないことを言ってしまった」となるのがざっとしたお話。稔は田舎でガソリンスタンドを経営する父親・勇(伊武雅刀)の店で地道に店員をやっている。弟は東京で写真家として成功し、母親の一周忌で実家に戻ってくる。式に遅刻するぐずぐずした男である。目障りなほど大きな外車に乗って来た。兄は遅れてきた弟に「よく来た、ここへ座れよ」と微笑して席を作ってやるやさしい男だ。弟はさっさと帰ればいいものを、幼馴染の智恵子が兄と同じガススタで働き、兄が智恵子と仲良く話しているのを見て嫉妬する。智恵子にはもっさりした兄よりシャキシャキした弟がカッコよく映る。3人はハイキングがてら近場の渓谷に足を延ばす。智恵子は弟に自分も東京へ行きたい、こんなところにいてもつまらないとおきまりの愚痴をこぼす。弟は前夜彼女と関係したが、連れて行く気など毛頭ない。わざと「クソしてくるわ」とぞんざいに告げ木陰に姿を消す。吊り橋がある。渡ろうとした智恵子に「危ないよ」と兄は手を貸そうとするが、女は邪険に振り払う。弟が橋の下で見ていた。智恵子は橋から落ちて死ぬ。弟は警察を呼ぶ。智恵子の遺体は川下で発見された▼どう考えても事故である。智恵子に自殺する理由などない。兄には殺す理由がない。ただ弟に対するコンプレックスがある。何をやらしてもスマートで垢抜けている彼に対し、兄は無骨でドンくさい。あとでわかるが親父も家を継いでくれる兄に対し、もの言いがはっきりしないというだけで、怒鳴りつけるなど、おとなしい性格に付け込むような振る舞いをする。兄はきっぱり「助けようとしたが、自分の差し出した手を彼女はつかんだものの、引っかき傷を残したまま、落下してしまった」といえばいいのに「智恵子は自分が殺しました」と警察に出頭したのである。なんてお騒がせ男なの。面会に来た弟に「自白してよかったと思っている。この狭い町で幼馴染の智恵子を死なせたレッテルを貼られて生きていくってどういうことかわかるか。あのスタンドで生きていくのも刑務所の檻の中で生きていくのも、大差ない。いやな客に頭を下げずにすむだけ、刑務所の方がいいよ」と完全に世捨て人▼「兄ちゃんは立派だよ」と弟は兄を励ます。どこかに兄弟の情はあるみたいだが、おざなりに聞こえる。「所詮オレはつまらない人生だよ」と、自由に生きている弟と比べ「なんで俺ばっかり」と自虐パターンの兄。「俺がここから出してやるよ」という弟に「ペッ」と唾を吐く。積年のコンプレックスが噴出したみたいである。裁判で兄は智恵子を助けようと手を延ばした時「やめてよ、触らないでよ」と振り払われ「よっぽど嫌いなのだ」と惨めに思ったと供述した。かわいそうになあ。弟は面会に来て橋の上の出来事の事実はどうだったのか兄に訊く。兄「お前は俺のことを無実と思っているのか。違うだろ。殺人犯の弟になりたくないだけだろ。初めから人の言うことを疑って、最後まで一度も信じない。それが俺の知っているお前だよ」。弟は逆上し椅子を投げつけて出て行く▼弟が証人台に立つ。「僕は何も知らないふりをしてきました。兄を庇いたいと思って。でもイヤになりました。事実を話すことで兄と引き裂かれ惨めな人生を送ることになっても僕は兄を取り戻すため、人生を賭けて本当のことを話します」。それがつまり兄が智恵子を突き落とすのを目撃した、ということなのよ。でも弟が衝撃的に思い出したのは最後まで兄が智恵子を助けるため、腕を掴んで引き上げようとしたが、智恵子は力尽きて落下した。それだけなのよ。「ゆれる」のは兄弟の心理と偽証のやり合いではなく、西川美和監督・脚本に揺さぶりをかけられた観客なのよ。ややいけ好かない自分勝手な弟を演じたオダギリジョーもさることながら、偽りの自白までして刑務所に行こうと決めた兄。暗い重い、そして限りなくうざい男、香川照之に1票。

 

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