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特集「幾億の星と幾千の月のシネマ・パラダイス」

2022年6月25日

特集「幾億の星と幾千の月のシネマ・パラダイス5」④
殺陣師段平(1962年 時代劇映画)

監督 瑞穂春海
出演 市川雷蔵/中村鴈治郎/田中絹代/高田美和

シネマ365日 No.3973

女たちの「段平」

新選組始末記 (1963年時代劇映画)

しょうがないなあ…というしかない映画だわ。「殺陣師段平」はこれが3度目の映画化だ。本作は1962年版である。他に新国劇や青年座の舞台、テレビにもなった。なにしろ人気のある作品なのだ。殺陣師一代、もの狂いなほど殺陣にかけた市川段平(中村鴈治郎)は、男の理想なのか。女房お春(田中絹代)は、酒飲みで隠し子を作り家庭を顧みないが段平を、あの人はそういう人だからと、愚痴ひとつこぼさず髪結いをしながら支える。将棋の阪田三吉の女房小春もそうでしたね。こんなめちゃくちゃな非家庭的な男に尽くし、文句を言わない女が妻の鑑だったのね。どこまで男に都合のいい時代だったのよ。段平が「大きな子供」みたいな男だと劇中、女たちが再々評する。甘え上手な男が好きな女ばかりじゃないだろ、と思うのだが(まあ、そういうなよ)とばかり、人情のツボをおさえまくったこの映画は語りかけてくる▼市川段平は沢田正二郎(市川雷蔵)が立ち上げた新国劇の頭取(マネージャーのようなもの)だが、殺陣師で鳴らした男だ。寝ても覚めても殺陣のことを考えている。東京公演で失敗した沢田は新しい剣劇に活路を見出そうとしていた。喜んだ段平は我こそと出番を待つが、沢田は段平の殺陣は歌舞伎仕込みでリアリティがない、と取り上げない。段平はリアルという意味がわからない。「写真のような、本物そっくりなことや」と一座の同僚に教えられ、リアルな立ち回りに工夫を凝らす。街で喧嘩しても殴られながら「立ち回り」を考える段平に、沢田は「古い」と無碍にしていた段平の技術を見直す。段平のヒントで組み立てた殺陣は評判を呼び連日小屋は満員、沢田は浅草を根拠に「右に芸術、左手に大衆」のスローガンを打ち立て、立ち回りだけでない芝居をも手がける。段平はそれが気にいらない。段平の不満を知った興行主が引き抜きに来るが「俺が金で転ぶ男と思うか」と札を叩きつける。大阪のお春が危篤を知らせる電報を受け、早く帰れと勧める沢田に「俺にもう用はないからか」と食ってかかり、劇団から逃走する▼お春は死んだ。十数年後、京都の漬物屋の2階で段平は中風で寝たきりだ。演劇界で盤石の基盤を築いた沢田が京都南座で公演する。段平は居てもたってもおられず、絶対安静の体を押して南座に駆けつける。娘おきく(高田美和)の知らせで沢田は南座の暗闇を探し回り、3階の階段で段平を見つける。沢田に、考えついた殺陣を必死に教える段平とは殺陣に憑かれた男。沢田は声もない。死の床で段平は殺陣用の木刀をしっかりと握っていた▼こういう精神世界は男だけのものだった。だから本作は人気がある。フェミニズムだ、やれMe Tooだなど(しゃらくさい、女にはわかるかい)とノドまで出掛かった男の本音の世界なのである。今さら目クジラたてるのも野暮だし、と言って(いいぞ、いいぞ)と手を叩くには抵抗がありすぎる。だから(仕方ないなあ)でお茶を濁す私。今や世界は女段平を輩出している。好きな仕事に打ち込んでどこが悪い、悪いというならその社会の方が悪いと、胸のすく女たちが指針を掲げる。段平が生き返ったらどう見るか。そうや、そうや、やったれ、と案外いうのではないか。本来「物狂い」とは、男も女も区別しない人間の本性だからだ。段平のような生き方が、女たちの無意識の中で暗黙知となり、新しい女像を育てていたかもしれないのだ。

 

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