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特集「幾億の星と幾千の月のシネマ・パラダイス」

2022年6月26日

特集「幾億の星と幾千の月のシネマ・パラダイス5」⑤
光(大森立嗣監督)(2017年 サスペンス映画)

監督 大森立嗣
出演 井浦新/瑛太/長谷川京子/橋本マナミ

シネマ365日 No.3974

遠ざかる映画

登場する人物の誰も好きになれないことが、この映画から私を遠ざけた。
非常に特殊な回想映画で物語の核は25年前の殺人です。故郷の美浜島で恋人の美花(長谷川京子)を襲う男を殺した信之(井浦新)は現在市役所の職員。団地住まいだ。妻南海子(橋本ナオミ)との間に娘が1人。仲は冷えている。妻は輔(たすく=瑛太)と不倫中。輔とは島で信之を兄のように慕っていた少年だ。父洋一から虐待を受けていた。金が欲しくて、信之が男を殺した現場に行き合わせ写真を撮った。それを売りつけようと近づき、南海子と関係した。ゴキブリが這い回りそうな汚いアパートに住み、奇矯な笑い声をあげるネジの飛んだ男だ。妻はいつも意味ありげに夫を見るが、何を意図しているのか不明の不気味な女。美花は女優となり売り出し中だ。輔の父親が10年ぶりに現れ、殺しの証拠写真でゆすれと脅迫する。そんなら美花本人に言えと輔が使嗾したので親父は美花を脅しにかかった。美花は信之に助けを求める。信之は美花のためなら殺人も厭わぬと思う▼親父の酒に睡眠薬を入れて眠らせ、その隙に隠した写真を探していた輔だが、殺す前にぽっくり親父は死んでしまった。彼のパンツをずりおろしたお尻が、シミだらけの布団の上で異様にアップになるのが不潔で気色悪い。信之は親父を埋めるためアパートの空室の床に穴を掘っていたが、秘密を知っている輔もシャベルで殴り殺す。美花は事件以来、肉体的・精神的なプレッシャーで何も感じない女になった。クールな流し目で信之を誘うが、所詮彼も「その他大勢」の男。輔は封筒に証拠写真のネガを入れ、1週間たって自分が職場に来ない時は投函してくれと同僚に頼んでいた。ある日南海子は団地の郵便受けに封筒があるのを見る。輔が幼い字で「①美花と俺と信之は美浜島の生き残りだ(島民のほとんどは津波で死んだ)②あなたの夫は人殺しだ。同封のネガを見てみな③きっと俺はもう死んでいる。それもまあいいか。本当は怖いが黙っていただけだ」。美花の部屋に入り浸りで戻ってこなかった夫が久しぶりに帰宅した。娘をあやす夫を見る妻の視線は(私、全部知っているのよ)▼演者たちは口の中でモゴモゴ言うものだから聞き取るのに苦労し、そのせいか散りばめられるセリフはオール謎めいていた。監督は果たして彼らに魅了されているのだろうか。痛ましくもグロテスクな映画だとはわかった。だからというか、しかしというか、共感するのが難しい。感情を失い、何を考えているのかわからないミステリアスな女である美花はしばしばボ〜と立っているだけだし、妻はいくら夫とうまくいっていないとはいえ、ゴキブリが這い回りそうな汚い輔のアパートで、よく全裸になれるね。非情な男は信之だ。娘が変質者にイタズラされ妻が嘆くのを見て「お前が望むなら犯人を殺してやるよ」とつぶやく。1人も2人も一緒だと思っているところが怖い。テクノロジーが進み社会が合理的・効率的になると、埒外に追いやられる異端者がドラマの主人公になる場合はしばしばある。でも本作の人物たちは一言で言うと共感を拒否する人たちばかりなのだ。団地の地面にローマ帝国のシンボルである、オオカミと少年2人の彫像があるのは何の暗喩? 粗大ゴミ回収車の忘れ物? 初めから終わりまで上手くいかないことばかりの映画なのだ。謎めいたセリフのサイコーは「人間のフリをするのが難しい」。なんのフリなら容易いのよ。率直に生きる人間をバカにしているわ。そういや、この映画、常軌を逸した輔のバカ笑いが、妙に物悲しく響いたわね。

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