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特集「幾億の星と幾千の月のシネマ・パラダイス」

2022年6月29日

特集「幾億の星と幾千の月のシネマ・パラダイス5」⑧
ふたり(1991年 家族映画)

監督 大林宣彦
出演 石田ひかり/中嶋朋子/富司純子/岸部一徳

シネマ365日 No.3977

ミステリーな父と母

北尾家は4人家族だ。父雄一(岸部一徳)、母治子(富司純子)、長女千津子(中嶋朋子)、末娘美加(石田ひかり)である。映画が始まって間もなく、この映画に違和感を覚える。母親はいつも和服をきちんと着て、割烹着をつけ今にも来客を迎えそうだ。ゴミ収集車のメロディが聞こえたら、ジャージで飛び出す主婦の感覚ではない。千津子が事故死してから情緒不安定なのだ。美加は片足を上げたら下ろす場所がないような、散乱した汚い部屋に平気でいる。美加が変態男に襲われたと聞くと「お前も襲われる年になったのか」と返す父親の感性にもギョッ。母親は学業もスポーツもよくできる千津子に頼りがちだった。逆に妹はドジ、ノロマで姉の影の存在だ。「妹の行く末が心配です」と担当の先生に言うと「美加ちゃんは心配ありません。逆に千津子さんを心配なさってください。千津子さんはまだ子供です」だからあまり大人扱いすると本人の負担になると、先生は暗に母親の依頼心を危惧する。それとこれも不思議だったのだけど、母親は美加を「いるかいないかわからないような子だったのに」と言うが、娘の部屋を一眼みれば、(ここにいるぞ〜)と大声で教えているような子ではないか▼このお母さんは夫の単身赴任中の浮気がわかったときも驚かせてくれる。相手の女性内田祐子(増田惠子=懐かしや、ピンクレディーのケイです)、が北海道から夫を訪ねてきた。治子は家にあげ「いつも主人がお世話になって」深々と頭を下げ「主人があなたに失礼なことをしたのではないのですか。あなたを見たら真面目な方だとすぐわかります」祐子は「ご主人とは離れられません」と思いを吐く。「いけないのは主人のほうです」と治子は祐子を庇い、耐えられなくなった女はスックと立ち上がり「二度とお邪魔しません」と言って辞す(この後ろ姿、元気よすぎない?)。夫が追いかけていく。後をつけた美加は父と相手が雨の中、抱き合っているのを見る。父が帰ってきた。妻は「冷えたでしょう。お風呂にしますか」と尋ねる。よくできた、と言うべきか。これだからしんどいと思うべきか、あるいは柳に雪折れなしとはこのことか。「彼女との過ちは一度きりだ。彼女のやさしさに応えたかった」と雄一は言うが、一度だろうと何度だろうと、決着をつけて妻の前に出るのが筋でしょう。彼は再び北海道の任地に戻る。復活するの、目に見えているわね▼姉妹ふたりについては、恋(らしきもの)にせよ、同級生との嫉妬や軋轢にせよ、中学・高校時代の女の子の通過儀礼的なお話だ。美加の親友真子(柴山智加)が唯一、個性豊かだ。老舗旅館の跡取り娘だ。なんとなく…などという亡羊とした恋愛感覚がない。「私には恋だ、愛だと(ウツツを抜かす)恋愛はないの」と朗らかに現実を捉え、幽霊になってもそばにいてくれた姉が、本当にいなくなってしまったと不安がる美加に「あんた、お姉ちゃんの分も幸せも不幸も、一緒になって生きるのよ」と尻を叩くいい友だちです。姉妹ふたりのシスターフッドなら退屈極まりない映画ですが、富司純子と岸部一徳の、ミステリー味の父と母、突如侵入してきた増田惠子が、本作の仕上がりをピリッと引き締めています。ワンシーンしか出演しませんが、美加のイケズな級友の母、神経症で服薬自殺する吉行和子、千津子の脆さを畏れる担任の先生の奈美悦子、変態男の頭師佳孝、何気に贅沢な配役です。

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