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令和4年7月のベストコレクション

2022年7月3日

特集「令和4年7月のベストコレクション」③
プライベート・ウォー(上)(2019年 伝記映画)

監督 マシュー・ハイネマン
出演 ロザムンド・パイク/ジェイミー・ドーナン/トム・ホランダー

シネマ365日 No.3981

報道は現状を変えられるか?

2012年シリア内戦の取材中、ホムスで殉職した戦争ジャーナリスト、メリー・コルヴィンをロザムンド・パイクが演じた。1986年、コルヴィンは戦場記者となり世界各地の紛争地から記事を送った。常に危険と背中合わせの取材だ。彼女が左目の視力を失ったのはスリランカだった。「戦場報道とは自分も死ぬかもしれない場所に行くこと。どんなに怖くても一歩踏みだし、目の前の人々の苦しみを記録すること」。彼女のモノローグはドキュメントを観ているような臨場感を与える。彼女はサンデー・タイムズ紙のスター記者だった。隻眼になった彼女を恋人は「スリランカなんかに行くからだ。みろ、美しかったのに」と言った▼2003年イラク国境。フセインが600人を虐殺して埋めた大規模な墓場の取材をメリーは敢行する。生涯の相棒となったフリーランスのカメラマン、ポールと出会ったのもイラクだ。軍が抑える検問所を、医療班の救援に行く看護師だ、これが身分証だとジムの会員証を見せてごまかし通過する。果てのない砂漠。「家族が行方不明になって13年、何か残っていないか探しに」地元の十数人が現場にいた。もし何もなかったらどうする。メリーはこう書いた。「シャベルの泥の中から骨と朽ち果てた衣類が現れた。小さな骨盤は子供のものだろう。切断された手足。裂けた肉。人間の体の脆さが頭から離れない。金属片がいかに易々と肉体を引き裂くか」。サンデー・タイムズ編集局、ショーン(トム・ホランダー)は「決まりだ、1面トップは砂漠の共同墓地で行く」▼名声と引き換えにマリーはPTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しむ。ポールが忠告する。「メリー、脳が損傷を受けると感情を処理する場所にトラウマが残る。それを現実のように感じる。あなたは戦場を見すぎている。病気と真剣に向き合わないと」「いいわよ」マリーは開き直り「話すわ。心理療法をやって。父を尊敬していた。理解者である父が死んだ。母を愛していたけれど葛藤がある。私は絶対、専業主婦にはなれない。太りたくなかったから節食した。でも大勢の人が飢えて死ぬのを見た。今は食べるのが好き。母親になりたいのに2度流産した。もう産めないかもしれない。年を取るのが怖い。若くして死ぬのも怖い。ウオツカ・マティーニがあると幸せ。でも1リットルほど流し込まないと頭の中の声が止まらない。戦場にいるのは大嫌いなのに駆り立てられる。この目で見ずにはおれない」「中毒だからだよ」とポール。編集局長も休養を勧め「安心しろ。君の席は安全だ」と保証したが、数日後「マリーは?」と訊くと「アフガンよ」だった▼「戦争とは限界を超えて耐える民間人の静かな勇気だ。戦うことを求められ、生きようとしている人々。母親たち、父親たち。息子や娘たち。心に傷を負った家族…。戦場報道で現状を変えることはできるか? 真の困難は人間性を信頼し、記事を読んだ人々が関心を持つと信じること」。私もまた自分に問う。ロシアのウクライナ侵攻から3カ月。連日の戦場報道を、いかに真摯な関心で受け止めているか?

 

 

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