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特集「ディーバ(大女優)」

2012年6月8日

特集 ディーバ(大女優) 悪女の元祖 ベティ・デイビス ポケット一杯の幸福 (1961年 ハートフル映画)

監督 フランク・キャプラ
出演 ベティ・デイビス/グレン・フォード/アン・マーグレット/ピーター・フォーク

女優魂

 ニューヨークはブロードウェイの街角でアニー(ベティ・デイビス)が籠に盛ったりんごを売る。雨に傘もささず破れた大きな帽子をかぶり、ボロ布でふくれあがったいでたちは歩くゴミ袋だ。街の新進ギャング・二枚目デイブ(グレン・フォード)はアニーのりんごを買うとつきがまわってくる。だから大仕事の前には必ずアニーをよぶか訪ねるかする。きょうも一の手下(ピーター・フォーク)がアニーをよびにきた▼妖精が好む人はつきがいいのだとアニーが説明する。「妖精は子供、物乞い、詩人が好きなのさ」「詩人? おれが?」ふきだしそうなデイブに「何かを信じる人さ。たとえばわたしのりんご」。彼女の楽しみはスペインにいる娘(アン・マーグレット)からくる手紙だ。下町の仲間からショバ代を巻きあげて貯めた、なけなしの金をアニーは娘に仕送りをしている。しわとシミにおおわれ血管の浮き出た手で、アニーはうれしそうに手紙をのばし、ゆっくり読む。スキャットという茶色の猫がいて、娘の写真のうえにねそべっているのを叱り飛ばし、手動式でレコードをかける。裏口の非常階段にすわったり窓から首をつきだしたりしながら、ボロアパートの住人たちが「胸にしみる曲だね」とか言って聴き入っている▼このあたりからもう完全に、ヒューマンにかけては右にでるものがいないというキャプラスク・ワールドである。アニーは「何年もあえずにさびしいが、ミシェル先生に船旅を止められている」と返事を書く。手紙の便箋は有名ホテルに働く下町仲間のボーイが盗んできてくれるもので、アニーは大ホテルを定宿にする富豪夫人、ホテル宛てに届く娘の手紙は同じくボーイが、いちはやく郵便物の中から抜いてアニーにまわすのだ。ところがそれがばれてボーイはクビになった。娘の手紙が届いているはずだ、アニーはボロ着のままずかずかとフロントにいく。取り返した手紙には娘がスペインから婚約者を連れてくる、彼は伯爵でその父親もいっしょにくる…▼アニーのりんごが必要になったデイブはアニーを探すがどこにもいない。重大な取引は迫る。ツキを呼ぶりんごがほしい。八方手をつくしてやっとアニーがアパートで飲んだくれ、泣いているのをみつける「娘が会いにくるンだ。このうす汚い婆さんをみて腰を抜かすよ」デイブが怒鳴る「だらしないぞ、そんなことでどうする」さあそこからである。ギャングと下町一同アニー救援隊が組織され超一流のエステシャン、デザイナー、仕立屋、美容師らが動員された。あのババアをいったいどう変えるつもりだ。いじわるな目付きのギャングの部下たちに、ベテランのエステシャンは「わたしをみくびりなさんな」一喝する▼目の覚めるような貴婦人に生まれ変わったアニーは、無事娘と対面を果たす。伯爵の父は大喜び、お礼にニューヨーク社交界のみなさんをパーティーに招待したいと申し出た。社交界? ニューヨークを牛耳る一世一代の取引が迫るデイブは、ここでアニーが投げ出したらツキまで逃げると思う。自分の手下を社交界のハイソににわか特訓「お前ら、アニーを自分の母親だと思って気合を入れろ」激をとばした。大物取引の情報をつかんだ警察は網を絞り、デイブ逮捕が迫る。パーティー当日、万事万端、生演奏の準備まで整った大会場に、首を長くして待機する伯爵親子と、なにも知らない無邪気な娘と、すべてを知っているアニーのほか、猫の子一匹現れない。静まり返ったホール。さすがのデイブも万策つきたのだ。腹をきめたアニーがすべてを伯爵にうちあけようとしたとき、会場入口が騒がしい。ざわざわと人の気配。「おまたせした」にこやかな挨拶とともに来場したのは警視総監、ニューヨーク市長夫妻、州知事夫妻らがぞくぞく。「さすがご名門」伯爵は感動のあまり声をなくす▼じつはデイブは逮捕されていたのだ。しかしどうしてもこの約束だけはと、アニーの話をうちあけたところ、意気に感じた警視総監が別のパーティーに出席中の一行をそのまま会場に連れてきたのだ。そのかわりデイブはギャング一味の逮捕に全面協力のうえ稼業から足を洗う…お伽話といってしまえばそれまでだ。しかし映画とは人生に夢と希望を与えるお伽話ではないのか。そんなキャプラの信念がびくともしない傑作である。そしてこれがキャプラの遺作となった。1950年代デイビスは40代という女優にとって難しい時期にさしかかり42歳のときの「イヴの総て」から、これといったヒットはもちろん出演作にも恵まれない生き埋め同様だった10年、キャプラは本作の冒頭スクリーンのド真中に、目をそむけるような貧困街の老婆に扮したデイビスを映す。「アップル。アップル」雨に打たれながらりんごをさしだすデイビスは顔中ふきでものだらけ。撮りも撮ったり、出るも出たり。この役から一転、デイビスの女優人生の後期を飾る、すさまじい悪女がスタートする。翌年「何がジェーンに起こったか」続いて「ふるえて眠れ」「妖婆の家」「残酷な記念日」。これまでの女優が老残という後退減少でしか捉えなかった年齢を「人生の結晶」に変える。スクリーン史上だれもやったことのなかった挑戦にデイビスは挑んだ。それがデイビスの女優魂だった。