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シネマ365日

2013年4月24日

さらば愛しき人よ (1975年 ミステリー映画)

監督 ディック・リチャーズ
出演 ロバート・ミッチャム/シャーロット・ランプリング/ジャック・オハローラン

「ゼロの焦点」ロスの悪女版

 1941年。ディマジオが連続安打を伸ばし、ヒトラーがロシアに攻め込んだ年。退廃と淀みのただよう夜のロスアンゼルスの下町。安宿の窓辺に立つフィリップ・マーロウ(ロバート・ミッチャム)の独白が流れる「オレも年を感じるようになり老け込んだ。それともロスの悪天候のせいか。金のためとはいえ、家出した女房を探すなんて。それともオレは本当に老け込んだのか。今は7月半ば。警察の目を逃れて安宿暮らしだ。25ドルの礼金で家出娘を探していたことがある。娘は男専攻の優等生だ。オレにいわせれば不良だが」だれにきかせるともないひとりごとによって、私立探偵マーロウの体の周辺に犯罪の匂いがたちのぼってくる。マーロウは安物のスーツによれよれのネクタイ、ハットを斜めに、髪はモシャモシャという冴えない中年のいでたち。おなじみレイモンド・チャンドラーのハード・ボイルド小説の映画化だ。同じマーロウでも、ビシビシ悪漢どもを追い詰めていくハンフリー・ボガードのヒーローぶりに比べたらまったくくたびれているところになんともいえない男の哀感があるのだ▼小説もつぎつぎ場面が転換し、どこからどこにつながるのかわからなくなったが映画もそう。とにかく説明がないのだ。パッと見たことのない男たちが現れ、きざなセリフを言ったあと殴るか殴られる、撃つか撃たれる、殺すか殺される。ラブシーンはあってもベッドシーンはない。ハード・ボイルドは女にじゃらじゃらしないのだ▼事件の発端はこうだ。マーロウのもとにマロイ(ジャック・オハローラン)という2メートルの大男が現れベルマという女を探してくれと頼む。マロイは7年前ベルマと銀行強盗の山を踏み、務めを終えて刑務所から出てきたところだ。そこをたちまち銃撃された。顔色も変えないマロイにマーロウは興味を惹かれ仕事を引き受ける。調査の手始めとして昔ベルマが働いていた店に行く。そこで第一の殺人。マロイがバーテンを絞め殺したのだ。マロイを逃したマーロウは店のバンドで演奏していた元バンドマンのトミーから、店のオーナーのジェシーを教えられ家にいくが手がかりは得られない。事務所に戻ったマーロウをマリオという客が待ち構えていた。盗まれた宝石の回収に立ち会ってほしいという。このへんからだんだん話が入り組んでくる▼マーロウが取引相手を待っているといきなり後ろから殴られ気絶、気がつくとマリオが死体となっていた。宝石の線から有名なコレクターを屋敷に訪ねたマーロウは美しく若い妻ヘレン(シャーロット・ランプリング)に出会う。彼女はマーロウにマリオを殺した犯人をあげてくれと頼む。マロイから連絡を待ちながら事務所に戻ったマーロウを暴漢三人が襲う。うち一人は無名時代のシルベスタ・スタローンだ。ここでまたマーロウは殴られて気絶、気がついたところは娼館の女将の店だ。マーロウは気絶ばかりしているのですね。女将はマロイの居所を吐かせようとマーロウを監禁。同じ場所にバンドマンのトミーが殺されて転がっていた。マーロウはふらふら脱出するが、女将は内輪もめであっさり射殺される▼結局七人もの人間がバタバタ殺される。なんのためかもちろん明らかにされない。黒幕にだれがいるのか観客は考える暇もなくゴロゴロ死体が増えていくのだから忙しい。そうそう、マーロウはベルマなる女性をいったんつきとめるのですよ。トミーの情報でベルマの居場所がわかったマーロウは、ベルマが精神病院にいて自分の名前も忘れていることがわかる。「これじゃ連絡はつけられないはずだ」とマーロウは納得し、一件落着とうまそうに昼飯を食っているところにマロイが現れる。コレコレしかじか、マーロウが説明しベルマの写真をみせると「ベルマじゃない」要はトミーに騙され、そのトミーはいち早く殺害されていた、というわけです。では本物のベルマはどこにいるのだ。マーロウはベルマの正体に気づくのだが気振りにもみせない。観客はわけがわからないまま、ラストシーンにひきずりこまれる▼さらば愛しき人よ、とはマロイのベルマへの惜別か、マーロウのベルマへの哀惜か、どっちだろう。七年間刑務所のなかで再会を指折り数え、やっとあえたとたん銃弾を撃ち込まれ、それでも愛しているといって息をひきとるマロイだ。やっぱりこっちかな、本命は。でもマーロウの場合も成り立つのだ。だって一度は愛を交わした女を射殺するのですからね。元祖クール・ビューティのシャーロット・ランプリングの美貌が冷たい光を放ちます。どこかでよく似た設定を読んだな…と思いあたった人は、たぶん松本清張の「ゼロの焦点」だと思います。