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特集「新宿2丁目を連れて歩きたいボーイフレンド」

2014年12月2日

特集「新宿2丁目を連れて歩きたいBF2」 ラファエル・ペルソナ「黒いスーツを着た男」 (2013年 犯罪映画)

監督 カトリーヌ・コルシニ
出演 ラファエル・ペルソナ/クロチルド・エム/アルタ・ドブロシ

「アラン・ドロンの再来」 ですってよ 

 ラファエル・ペルソナがさ、アラン・ドロンの再来っていうから飛びついて見たのよ。マア悪くはないけど、まるきり毒が足りないわね。ゆがきすぎた野菜というか、消毒したアラン・ドロンみたいで、灰汁(アク)がないのよね。どこからとなくナフタリンの匂いがしそうなのだけど。アラン・ドロンだってデビューしたとき第二のジェームズ・ディーンだなんて言われ「フン」鼻でせせら笑っていました。ラファエルは「自分では考えたこともないが、そうであればうれしい」なんて優等生の回答ね。そのわりにはしゃべりかたとか、歩き方とか、手振りなんか、よく似ていましたけどね。アラン・ドロンが健在だからあんまり露骨な反発はしないだろうけど、再来なんて言われて喜んでいちゃ、芽がないですよ▼「黒いスーツを着た男」だからラファエル扮するアルが主人公みたいだけど、そうじゃない。原題は「三つの世界」とでもいうのか、登場人物3人が主人公なのよ。一人はアル。母ひとり子ひとりで、貧しい家に育つ。母親は彼を愛し誇りにしている。だからラファエルはとても母思いの好青年だ。外車販売の会社に勤め営業マンとして一生懸命車を売り、業績を伸ばし、社長の信頼を得て娘と結婚することになった。式を10日後に控えた夜、同じ会社の友人と飲んで騒いだ帰路人をはねた。そのままにして逃走する。窓にいた女性がひき逃げを目撃していた▼それがジュリエット(クロチルド・エム)だ。大学講師の恋人がいて妊娠している。逃走した車をみて、ジュリエットは現場に走り救急車を呼ぶ。翌日気になったジュリエットは警察に問い合わせ、救急病院に行って男の容態を聞く。重傷で昏睡だった。かけつけてきた男の妻ヴェラ(アルタ・ドブロシ)はジュリエットに感謝する。彼ら夫婦は不法滞在のモルドバからの移民で、就労もままならず入院費も払えなかった。ジュリエットはなにくれとなくヴェラの相談にのる。ジュリエットは病院で黒いスーツの男をみかけ、あの夜ひき逃げした車のドライバーだとわかる。後を追い会社をつきとめヴェラに謝罪するよう詰め寄る。アルは自分のしたことを後悔する、気の弱い正直な男で、見舞金を渡すのにジュリエットに仲介役を頼みたいという。戸惑いながらもアルの申し出を受け入れたジュリエットは、身分違いの結婚に不安を感じているアルに同情を覚える。アルはアルで、唯一心情を吐露できる相手としてジュリエットに惹かれ、ふたりはできちゃう。アルが会社の車を横流ししてつくった8000ユーロを慰労金としてヴェラに仲介したジュリエットを、ヴェラは裏切り者だと難詰する▼要は車の事故によって運命を狂わした三人の男女が主人公なのです。入院中の夫は死ぬ。ヴェラは嘆くもののしたたかで、入院費の清算、葬儀一式と帰国の費用すべてを払えとアルに要求する。彼女の立場であれば無理ないであろう。ある日一瞬ですべてを失ったのだから。でもそれはアルも同じだ。社長はアルの不審な行動から横流しと横領をつきとめ「息子と思って目をかけ、会社も娘もくれてやった」。アルはアルで「粉骨砕身働いた報酬として当然だ、あなたの不正まで身代わりした」。ヴェラは夫の葬儀を陰ながら参列して見送るアルを告訴しようとするが、せいぜい1年もすると出所する、それに死んだ夫は還ってこないと自分に言い聞かせ、さびしくアルの前を去る。ジュリエットは恋人の哲学の講師のアパートに転居し、心機一転、新生活に入ろうとするが、アルに未練ありげである。アルの婚約者はこんなことになったが自分の気持ちはかわらない、アルを愛していると告白するが、アルはすべてを失い、だれも知らない遠くへ行きたいとばかり、汽車に乗っているところでエンドだ▼カトリーヌ・コルシニって本シリーズにも既出の「彼女たちの時間」(2001)の監督よね。主演はエマニエル・ベアールとパスカル・ビュシエール(「月の瞳」1995)でした。成長した幼なじみの親友ふたりが、それぞれの仕事をもち、家庭もありパートナーがいるものの、愛しあう関係になり、でも離れていく。彼女の映画の別離は淡々とやってくる。まるで現実とはこう描くしか収まりようがないとでもいうふうに。ひき逃げという事件から細い糸をたぐりよせ、くるくると糸巻きに巻きながら、それをまた別の事件に織り換える、その手法が繊細で飽きさせません。ありふれた日常の下に隠れていた地獄の日々、こなごなに砕かれた将来、首をつっこんだばかりにトバッチリを食い、それでも男に気のある女の未練。みな等身大であるから退屈かといえば全然ちがう、襞の深い見応えのある映画にしたのは、ラファエル君もさることながら、やはり監督の手腕です。ラファエル君、早いうちに「脱アラン・ドロン」宣言して蹴飛ばしておかないと、呪縛と落差にひどい目にあうよ。

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