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特集「新宿2丁目を連れて歩きたいボーイフレンド」

2014年12月15日

特集「新宿2丁目を連れて歩きたいBF2」 ピーター・ユスティノフ 「クォ・ヴァディス」 (1951年 事実に基づく映画)

監督 マーティン・ルロイ
出演 ロバート・テイラー/デボラ・カー/ピーター・ユスティノフ

母難の皇帝 

 監督・主演級ともに鬼籍に入っています。なにしろ1951年の映画であり、かつ170分という長尺の大スペクタクル。クォ・ヴァディスとはラテン語で「あなたはどこへ行くのか?」。ヨハネによる福音書の一節でもあります。本作での主人公は無敵ローマ軍団の連隊長・マーカスを演じたロバート・テイラーであり、ヒロインは花のようなリジアであるデボラ・カーでしょう。異議なし。彼らをさておきピーター・ユスティノフとはなぜだ。彼こそが皇帝ネロに扮しているのですよ、かのローマ帝国第4代皇帝にして、枕詞に必ずといっていいくらい「暴君」がつく。題名通り深淵な宗教問題が映画のテーマになっています。時代はAD68年。パレスチナから帰ったパウロを迎えたマーカスが「あそこは紛争が多くてたいへんだったでしょう」とねぎらいます。パレスチナ問題とはすでに1世紀から始まっている、世界史上未曾有の紛争地域だったのです▼死んだ大工の息子がなぜ崇拝されているのかとマーカスはいぶかる。軍人である彼にとって統治の別名は戦争である。右の頬を打たれたら左の頬も出せという教えなど「羽根で狼を服従させろというのか。まるで物乞いの神だ。はりつけの大工のいうことなどかまうな」同じ考えだったのが皇帝ネロです。ぐんぐん国内で勢力を広げるキリスト教がネロを悩ませていた。ローマ人とは多神教の、あの神さまもけっこう、この神さまもいらっしゃいと、ヤオロズの神を受け入れる日本人と宗教観がよく似ていまして、そこがキリスト以外に神を認めない一神教とは水と油でした。遠からず二者は激突したでしょうが、この時代はやくも帝国は権力にまかせ、キリスト教徒の弾圧に出ました。先頭で策謀したのが映画ではネロとなっています▼劇中ネロは終始ユーウツそうである。民衆は大嫌いだと吐き捨てる。民衆の支持を得ない皇帝がなりたつと思っているのかと、諌める陪臣がいないこともないのですが、ネロの言い分は「おれのことを母殺し、妻殺しだと悪口を言う」(ホントのことだから仕方ないだろ)とみな思っていますが声には出さない。ネロが皇帝の座についたのは16歳。ティーンエイジャーの遊びたい盛りのときに国家の最高責任者となった。哲人セネカを師匠として思考力と弁論力を鍛え、若い脳力はぐんぐん栄養を吸収しパワーアップ、このままいけばまれなる名君となるはずだった。ところが母親が朝夕(お前が皇帝になれたのはママのおかげよ)とか吹き込んだのでしょう。彼女の権力志向は並外れていて、息子を皇帝の玉座につかせるため先帝を毒殺した。だからママの力によって皇帝になったというのは確かに事実ではある、あるが現実に皇帝に就任し、やろうと思えば何でもできる最高権力を手にした青年にとって、今さら首根っこつかんで振り回す母親はウザッタイことこのうえなし。晴れの式典で必ずネロの隣にすわるママは母后というより「ふたり皇帝」の図である。嫁選びは鶴の一声。好きな女と結婚できなかった息子は母親を敵視。嫁がこれまた気の強い女で、浮気したネロを黙認するはずがなく母と妻、おんなふたりの炎にあぶられ、とうとうネロはどっちも暗殺させてしまいます。そのくせ国民が「オレを責めている」なんて、今さらいえるか▼ネロは竪琴を弾いたり歌をうたったり、芸能の好きな皇帝でしてね。そのこと自体帝国にとって悪いはずはなかったのですが、度を過ぎると…「創造するには犠牲が必要だ、新しいローマは炎の中から生まれるのだ、民衆はわたしを暴君と呼ぶがわたしは平凡に耐えられないだけだ、最大の犠牲を払うことで未知の世界の扉を開くのだ」そんなこと叫んでローマ市街に火を放つのよ。たまったものじゃないわ。暴徒と化した民衆が宮殿に押し寄せる。怒涛のようなうねりが宮殿の奥にまで伝わる。「やつらはなんと叫んでいる」とネロ。「皇帝の新しい呼び名は放火魔だと言っています。群衆を鎮めねばなりません。皇帝陛下、お言葉をかけてください」と近衛軍団長。「お前が行って話せ」とネロ。「わたしが言葉をかけたら石を投げられます」ネロは矛先をかえ、町を設計した建築士に「お前の設計だ、連中をなだめろ。食べ物でもワインでもなんでもやると言え」「与えなくても奪うでしょう」「ローマを焼いたのはお前だ」「陛下のご命令でした」「だれかを身代わりにしろ」「いい考えです。あなた以上の神を持つ一団、クリスチャンはあなたの敵です、かれらのしわざにしましょう」「書字板を持て。ここに布告する。愛する町を焼き払ったのはクリスチャンと称する不届き者である。彼らは流言により罪をネロになすりつけた…」▼火あぶり、逆さはりつけ、ライオンのえさ、ありとあらゆる方法でネロは捕らえたクリスチャンを処刑します。ネロは太りやすい体質だったと伝えられ、運動しなかったからますます太った。今でも残っている胸像はふっくらしています。塩野七生さんの「ローマ人の物語」によると「悪名高き皇帝たち」はティベリウス、カリグラ、クラウディウスと続き、大トリに登場するのがネロ。ピーター・ユスティノフは感受性が強く神経が細い一方で傲慢、同時に気弱で独善的、発想にはかなりスケールの大きなところがあった、女難、いや母難の独裁者を繊細に演じ、アカデミー助演男優賞にノミネートされています。

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